1. 2021年6月号

投稿日時: 05/07 yashiba

 或る日のインド洋  立会川二郎

ガチャリとバルブが結合された
静かなインド洋上

アケイ少年はこの日が待ち遠しかった
今日は大好きなイスマエル兄さんの
結婚式
モスクのモザイク模様の
タイルに陽が映える
アケイ少年はこの日の為に
参拝者の荷を運びチップを貯めて
街に出て花火を買っていた
イスマエル兄さんと
花嫁のアニラさんが
モスクから出てきた
響き渡る列席者の歌声
アケイ少年は花火に火を付けた
バーンと音がして花火が飛び散った

アケイ少年は空が曇ったと思った
少年がみた最後の空だった
大きな鳥の影が空を覆った
その瞬間
鳥の翼から閃光が放たれた
モスクのモザイクの壁が崩れ落ちた
鳥は去り
瓦礫の山が残った

ガチャリとバルブが結合された
静かなインド洋上

日本国海上自衛隊給油艦から
アメリカ合衆国海軍補給艦への
洋上給油活動が始まった
静かなインド洋上

アメリカ合衆国海軍原子力空母に
艦上爆撃機が戻ってきた

或る日のインド洋
静かな静かなインド洋上


 ●選評
おおむらたかじ
 静けさの中で、ガチャリと音、一連で決まりですね。その時、イスラム圏のどこかで、少年が心待ちにしていたモスクでの兄の結婚式。少年はこの日のためにチップを貯めて花火を買っていた。兄と花嫁がモスクから出てきた。花火に火をつけた。花火が飛び散った。そして、空爆。曇ったと思った最後の空。残ったのは瓦礫の山。
 自衛隊の給油艦とアメリカの海軍補給艦への給油活動、それは何を支えていたのか。
 「ガチャリとバルブが…」のリフレーン。終連、一連、四連と繋がって、きっちりと決まっていますね。


草野信子
 インド洋上の静けさ。想像のなかでバルブの結合音を聞いているところに表現の独自性を感じました。テロ対策特措法によって、日本は、給油を名目に海上自衛隊護衛艦を派遣し、実質、アメリカの戦闘行為の支援の役割を果たしました。立会川さんは、結合音と同じく、空爆で殺される人々の暮らしのシーンを想像し、きめ細かく描写することで、そのことへの怒りを伝えています。「或る日」とは、自衛隊の軍事行動のさらなる拡大が容認されるようになった現在を、そこから照射している言葉のように思いました。

 


都月次郎
 映画的な手法が成功している。二つの場面が同時に進行して行くことで、観客の目で見ていた私たちも、実は加害者側にいたのだと気付かされる。花嫁に爆弾を、これはアメリカのお家芸。人が集まっていればテロリストの集会と言い逃れが出来る。人間の叫びも聞こえない、血の匂いもしない、パイロットはゲームのようにボタンを押すだけだ。